オリオン税理士法人
所得税

所在不明株主からの株式の買い取り


・概要

 非上場の同族会社に同族株主と同族株主以外の少数株主(遠い親戚や知り合い等)がおり、普段事業活動を行う上では特に影響はありませんが、事業承継やM&Aを行う際の意思決定に影響が出ることがあります。
 そのため、意思決定の迅速化や株式分散を防ぐために同族株主または法人が少数株主から株式を買い取ることはよくあります。

 

・所在不明株主

 最初に株主名簿に登録された少数株主のうち、引っ越しや相続発生の連絡が無いといった理由により株主の所在が不明となるケースがあります。
 こういった株主(または相続人等)と連絡を取り株式の買い取り交渉を行う事は困難であるため、一定の手続きを行うことにより競売または裁判所の許可を経て株式を取得することができます。

 

・株式の取得方法

①特別支配株主による株式等売渡請求
 議決権の90%以上を有する「特別支配株主」が他の株主全員に対して株式の強制売却を命じる手法。取締役会もしくは過半数以上の取締役の合意による承認が必要。株主総会や裁判所の許可が不要。
②株式併合
 株式の統合により少数株主が保有する株式を1株未満とし、少数株主が保有する権利を失効させる手法。端数となった株式は端数相当の金銭が交付される。株主総会や裁判所の許可など手続きが煩雑で、供託所に買取価額相当額を供託する必要がある。
 

・源泉徴収義務

 仮に法人が所在不明株主から株式を取得した場合、株式の買取価額のうち資本金等の額を超える部分についてはみなし配当に該当する(所法25-1-4)ことから、当該株式に係る株式会社は、所在不明株主に対しその買取代金を支払う際に、その配当について所得税を徴収し、その徴収した日の属する月の翌月10日までにこれを国に納付します。
 納付期限については、「支払う際」の支払には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれることとされています(所基通181~223共-1)ので、裁判所の決定により売買価格が確定した時に、供託金の額を限度として譲渡制限株式の売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなされ、取得者への支払債務(代金支払義務)の全部又は一部が消滅する(履行される)こととなります。よって裁判所の決定により「売買価格が確定したとき」の属する月の翌月10日が納付期限となります。
 また所法181-2(所在不明株主が法人の場合は同法212-4)の規定により、所在不明株主に対し、支払の確定した日である当該株式会社による自社の株式の買取りの日から1年を経過した日までにその支払がされない場合には、その1年を経過した日においてその支払があったものとみなして、源泉徴収を行わなければなりません。
 供託後に売買が成立した場合には、法人が株式の還付を受け、所在不明株主が金銭の還付を受けますが、その所在不明株主から源泉所得税相当額を返金してもらう必要があります。しかし長らく連絡が取れない所在不明株主から返金してもらうことは困難であり、供託所も各々が勝手に手続きしてもらうというスタンスなため相手方の住所等は教えてくれません。そのため源泉所得税は支払者負担となる可能性が高いと言えます。(所在不明株主が供託通知から1週間以内に株式を供託しない場合は法人は売買を解消できますが、解消する理由がないため)

 
・株式併合した場合の源泉徴収義務

 株式併合をした後に少数株主の保有する1株未満の株式を取得する場合は、配当等とみなす金額(所法25-1-5)の規定にある「その他の政令で定める取得(所令61-1-9)のうち1に満たない端数の処理(会社法235-2)」によりみなし配当とされないため、源泉徴収は不要です。

 

 (小林)

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