売掛金の回収の際に、得意先から振込手数料が差し引かれて代金が支払われてくるケースはよく見かけます。
多くは商慣習などによるものだそうです。
この場合、差し引かれた金額を【支払手数料】として会計処理をされていることがほとんどではないでしょうか。
しかし、令和5年10月から始まるインボイス制度下においてはこの処理について検討が必要になります。
◆検討が必要な理由
現行法においては、支払金額の合計額が3万円未満である場合には、
帳簿のみの保存をもって仕入税額控除の適用が可能となっております。
一方、インボイス制度下においては、支払金額の合計額が3万円未満であっても
現行法では認められている帳簿のみの保存による仕入税額控除は認めてはおりません。
したがって、何かしらの手続きが必要となります。
◆行う必要がある手続き
事業者の方は振込手数料が差し引かれた場合には次のいずれかの手続きが必要となります。
A:得意先等から支払手数料に関する請求書を発行していただく。
B:得意先に対して売上の値引きを行ったとする≪適格返還請求書≫を発行する。
いずれかの手続きを行わない場合には、仕入税額控除等の適用をすることができません。
◆税金的にはどの処理がいいのか
それでは、税金の面においては上記AとBどちらが有利となるのでしょうか。
答えはBの≪適格返還請求書≫の発行による売上の値引きによる処理になります。
理由としては下記の2点が挙げられます。
1.簡易課税を適用している事業者の場合
簡易課税を適用している場合には、売上金額のみで消費税額が計算されます。
したがって、税額計算の基となる売上を減少させる処理のほうが納税額は減少します。
また、簡易課税が適用されるには基準期間の課税売上高が5,000万円以下である必要も
ありますので、適用要件を満たすためにもBの処理のほうが有利となります。
2.個別対応方式または一括比例配分方式(以下、比例配分方式)を適用している事業者の場合
比例配分方式のいずれかを採用している事業者の場合には、
共通対応する課税仕入れについては課税売上割合の割合分でしか仕入税額控除がされません。
通常、振込手数料は共通対応する課税仕入れに該当しますので、
その全額を仕入税額控除することはできないものと考えます。
一方、売上の減少であるならば、売上に対応する消費税の全額を減少させることになるので、
課税売上割合に応じることなく消費税の控除が行われます。
よって、Bの処理のほうが有利となります。
インボイス制度下ではなにかしらの書面の発行と保存が必要となりますので、
万が一、振込手数料の負担がある場合には売上の値引き処理をされたほうがよろしいかと思います。
ですが、一番は請求金額をきちんとお支払いいただくことかと思いますので、
これを機に得意先の方と事務負担となるため請求金額をそのままお支払いいただく話し合いをされてみてはいかがでしょうか。
y.s