オリオン税理士法人
相続税

相続した収益物件から生じる収益の課税関係


 賃貸不動産を所有していた被相続人の相続で、遺言書がなく相続人が複数いる場合には、その収益物件から生じる家賃を誰が取得するか、という問題が生じることがあります。

 遺言書がない場合には、遺産分割協議により誰がその不動産を相続するかを決めます。
仮に相続人が長男と次男の2人として、遺産分割の日に長男がその不動産を取得すると2人の間で合意した場合に、相続発生日から分割の日まではその家賃は2人の共有財産となります。

 そのため、家賃については各相続人が法定相続分取得したとしてそれぞれ所得税の申告が必要となります。
これについては、最高裁の判決に、「遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」とあります。

 (参考)相続開始後遺産分割までに共同相続不動産から生じた賃料債権の帰属
     最高裁判所第一小法廷(上告審)【判決年月日】 平成17年 9月 8日【事件番号】 平成16年(受)第1222号

 ここで、上記のケースで、長男が相続開始日以後の家賃についても単独取得することを双方合意した場合はどうなるのでしょうか。
 これについては、東京高裁昭和63年1月14日決定において「相続財産から生じる家賃は相続財産そのものではなく、相続財産から生じる法定果実であり、相続財産と一括して分割の対象とする限り、例外的に遺産分割の対象とすることも許容されるものと解すべきである(抜粋)」とあることから、法的には問題ないと思われます。

 しかし、税務上では注意が必要となります。
 ここで問題となるのは相続税ではなく所得税です。不動産が未分割の状態で、長男と次男がが法定相続分により不動産所得を申告し、その後遺産分割協議書により長男が家賃も単独取得することが決まったとします。次男は家賃を取得しなかったのでその分所得税を納めすぎという状態になっています。
 一見すると申告のやり直しができるように見えますが、実はこの場合には、申告済みの所得税については分割確定による修正申告及び更生の請求ができません。
 次男は例え家賃を取得しなかったとしても所得税の納税義務が発生する事になります。

  国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1376_qa.htm

 従って、家賃相当額を次男から長男に渡すと、長男への贈与となってしまう可能性があります。
これを避けるには、遺産分割協議書において家賃相当額を次男から長男への代償財産の交付であることを明記しておくと良いかと思います。

 上記の通り課税関係がややこしいため、収益物件から生じる家賃については、なるべく相続発生から分割の日までは法定相続分、それ以後は財産を取得した人の所得、とした方がよろしいと思います。

 いずれにしろ収益物件の相続には注意すべき点がありますので、事前に遺言書に誰に財産を相続させるかを書くことが後々の問題を最小限にできる方法だと思います。

 (小林)

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