相続した不動産を売却する場合、遺産分割の方法により、譲渡所得税の申告の取扱いに有利、不利が生じます。今回は、そのような事例について確認したいと思います。
- 換価分割
- 換価分割とは、相続財産を売却し、その代金を分配する分割方法です。
- 代償分割
- 代償分割とは、特定の相続人が相続財産を取得する代わりに、当該財産を取得した者が他の相続人に対して債務を負担する分割方法です。
【事例】
両親が亡くなったため、遺産分割を兄弟二人で実施し、自宅については換価分割により2分の1ずつ譲渡代金を受け取ることにしました。因みに、自宅には長男Aが同居しており、長男Aのみが居住用家屋の特別控除・軽減税率の適用要件を満たしています。
【換価分割による遺産分割協議書】
1条 兄Aは、換価分割を目的として自宅不動産を相続する。
2条 兄Aは、不動産を売却・換価した後、売却代金から売却に要する一切の費用及び公租公課等を控除した 残額のうち二分の一を弟Bの指定した口座に振込むものとする。
【換価分割の疑問点】
代表で自宅を相続した兄Aは、自宅の売却により居住用家屋の3000万円特別控除を利用できるか?
【換価分割の留意点】
換価分割を選択する場合であっても、譲渡契約をスムーズに実施するため、便宜的に代表相続人が単独で相続する場合があります。その場合も、確定申告は実態の持ち分により兄弟それぞれ申告することになります。
そのため、換価分割による場合、居住用家屋の特別控除・軽減税率の要件を満たしている兄Aの持ち分にのみ特例の適用が可能となり、弟の申告する持ち分相当については特例の適用ができません。
【代償分割による遺産分割協議書】
1条 兄A は、自宅不動産を相続する。
2条 兄A は、自宅不動産を相続した代償として、金▲▲円を、弟B に支払うものとする。
【代償分割による取扱い】
代償分割による場合は、兄が単独で確定申告することになり、譲渡代金全額に居住用家屋の3000万円特別控除の利用が可能となります。そのため、譲渡を検討している場合であっても、想定時価から諸手数料や税金等を控除した額を代償金とするなどで、当該特例を有効に利用することが可能となります。
ただし、代償金が相続した不動産の売却代金を原資とすることが明らかな状況の場合など、実態が換価分割とみなされた場合、税務上、当該特例の適用が否認される場合があります。譲渡を前提として居住用家屋の贈与を受けた場合などで、当該特例の利用が否認された事例もありますので、分割協議書を実施される場合には専門家に確認するなど十分に検討したうえで実施してください。
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