⑴財産分与
財産分与は、夫婦が婚姻生活中に築き上げた財産を離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて分配することをいいます。法律では、離婚の際に相手に対し財産の分与を請求することができる(民法768条1項)と定めています。
⑵財産分与の対象となるもの(共有財産)
財産分与の対象となる財産は共有財産と呼ばれています。共有財産か否かの判断は、財産の名義によるのではなく実質的な判断によります。婚姻中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産であれば、名義を問わず、財産分与の対象である共有財産との判断がなされます。例えば夫婦の共同名義で購入した不動産、夫婦の共同生活に必要な家具家財、片方の名義になっている預貯金や車、有価証券、保険解約返戻金、退職金等、財産分与の対象となります。
また婚姻前から有していた財産や、別居後に取得した財産は特有財産となり、財産分与の対象とはなりません。
マイナスの財産(借入金など)がある場合は、夫婦共同のもの(生活費や住宅ローンなど)は財産分与の対象となります。
⑶課税関係
1.現金預金を分与した場合
夫名義の預金2,000万円のみが財産分与対象で、分与割合が50%のケース
①財産分与請求者(妻)
課税なし
②財産分与義務者(夫)
課税なし
離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税がかかることはありません。これは、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるからです。
ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。
1.分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
例えば預金の99%を妻が貰うなどの場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
2.離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
例えば偽装離婚による場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。
国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4414.htm
2.不動産を分与した場合
夫名義の土地建物(時価4,000万円 取得費3,000万円)のみが財産分与対象で、分与割合が50%のケース
①財産分与請求者(妻)
贈与税課税なし(上記と同じ)
不動産取得税課税なし(上記と同じ)
②財産分与義務者(夫)
譲渡所得税が課税される(時価>取得費の場合のみ)
財産分与が土地や建物などで行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われることになります。
この場合、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。
また財産分与を受けた人は、財産分与を受けた日にその時の時価で土地や建物を取得したとみなされます。
したがって、将来、財産分与を受けた土地や建物を売った場合には、財産分与を受けた日(=取得日)を基に、長期譲渡になるか短期譲渡になるかを判定することになります。
国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3114.htm
この場合、無償で財産分与した側(夫)に対して所得税が課税されるのは納得がいかないのかもしれません。対価を得ていないのに何故課税されるのかと疑問になりますが、実は資産の譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので財産分与もその対象となります。
ところで所得税法33-1の4には、「民法第768条《財産分与》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。」とあります。
さらに同法には、「財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡であり、贈与ではないから、法第59条第1項《みなし譲渡課税》の規定は適用されない。」との文言があります。
つまり、不動産を財産分与するという行為は、資産の譲渡に該当し、現金等という対価は得ていないが、「財産分与義務の消滅という経済的利益」を対価とする譲渡であるため、所得税が課税されるということになります。
(参考)最高裁第三小法廷昭和 50 年 5 月 27 日判決 昭和 47 年(行ツ)4 号
仮に仕訳で表すとこうなります。
①財産分与義務者(夫)
現金 2,000万円 / 売上高 2,000万円
→不動産を時価4,000万円で売って50%相当の現金を受け取ったとみなす
売上原価 1,500万円 / 不動産 1,500万円
→収入金額2,000万円と取得費1,500万円の差額500万円が譲渡所得となる
財産分与義務 2,000万円 / 現金 2,000万円
→受取ったとみなされた現金(実際は不動産)を妻に渡し義務が消滅
②財産分与請求者(妻)
不動産 2,000万円 / 財産分与請求権 2,000万円
→不動産(時価4,000万円)の50%を受取り権利が消滅
なお、財産分与義務および財産分与請求権は離婚請求時に発生し、離婚から2年で消滅します。(民法768条)
また居住用財産に限り、離婚前には「婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の贈与の2,000万控除特例」、離婚後にはマイホーム(土地含む)に限り「居住用財産を売った時の3,000万控除特例」を使うことも可能です。ただし両方とも適用要件がありますのでご注意ください。
以上の事から、財産分与として不動産を渡す場合には細心の注意が必要となります。
また、蛇足ではありますが、離婚の際には公証役場で離婚公正証書を作成しておいた方が後々安心すると思われます。
財産分与の取り決めはもちろん、仮に相手方が慰謝料や養育費の支払いの約束を反故にしたとしても、裁判をすることなく財産を差し押さえられる強制執行が可能になる特別な機能を備えることができます。
(小林)