(1) 相続分の譲渡とは
相続財産を分ける方法としては遺産分割協議を行うことが一般的ですが、他に相続分の譲渡という方法があります。
相続分の譲渡とは、債権と債務を包括した遺産全体に対する相続人の持分を他の者に移転することをいいます。
相続分の譲渡をした場合、譲渡人は遺産に対する持分を有しないことになり、譲渡後は遺産分割協議に加わる必要がなくなります。
一方、譲受人は譲渡人が有していた遺産に対する持分を承継し、遺産分割手続に関与することになります。
相続分の譲渡は第三者に対しても行うことができ、第三者に対して譲渡された場合には、当該第三者を含めて遺産分割協議を行います。
(2) 相続分の譲渡が有効なケース
例えば、下記のようなケースでは相続分の譲渡が有効に働く可能性があります。
① 相続人はA、B、Cの兄弟3人。
② 相続財産は3,000万円(内、自宅の価値は2,500万円)。
③ Aは自宅に同居しており、引き続き住みたいと考えているが、法定相続分の代償金を支払う資力はない。
④ AとCは仲が悪く、Cは法定相続分の代償金が支払われない限り、協議に応じるつもりはない。
⑤ BはA、C共に関係良好だが、板挟みになりたくないし、早く相続を終わらせたい。
上記の場合、BはAに自身の相続分を譲渡することにより、争続から解放されることができます。
仮にBの1,000万円の法定相続分を800万円で譲渡できれば、Bは200万円でストレスから解放され、Aは本来支払うべき代償金が200万円減額されるため、お互いWinWinといえます。
(3) 相続分の譲渡にかかる税金
① 譲受人が相続人の場合
相続人間で相続分の譲渡がなされた場合、譲渡人及び譲受人には、相続税以外の税金は課されないと解されます。
有償譲渡の場合には、譲渡代金に応じた相続税が課されます。
これは通常の遺産分割協議で代償金の受渡や法定相続分と異なる割合による遺産分割をした場合に、代償金の受領者や法定相続分よりも多く相続した相続人に譲渡所得税や贈与税がかからないのと同様であるためです。
② 譲受人が第三者の場合
イ 譲渡人
譲渡人は、一旦遺産を取得した上で第三者に譲渡したものと解されるため、相続税が課税された上で、更に有償の譲渡の場合には、譲渡所得税が課税されます。
無償の譲渡の場合は、譲渡所得税は課税されません。
ロ 譲受人
無償譲受の場合には贈与税が課税されます。
(4) おわりに
この制度を知ったとき、私は本当に相続人に恨みがあったら嫌がらせのためだけに第三者に相続分を譲渡する相続人も多いのでは?と感じました。
ただし、第三者に対して相続分の譲渡がなされた場合、他の相続人は、譲渡から1箇月以内であれば、その価額及び費用を償還することにより、その相続分を取り戻すことができる制度を用意し、本制度が濫用されないようにしています。
遺産分割協議が長引いて疲弊している方がいらっしゃいましたら本制度の利用をご検討下さい。
(HIPON)